歴史と物語

東京から約3時間、京都や出雲など、日本の伝統や神話の気配を感じさせる観光地からもアクセス良好な鳥取県倉吉市。江戸から明治にかけて、この地は物資の集散地として、また豊かな商家が軒を連ねる商業の要衝として栄華を極めました。

「風の 倉吉」は、この歴史深いまち全体を一つの宿と見立てた「分散型リトリートホテル」です。かつての豪商の邸宅や蔵を、フロント・客室・ダイニングとしてまちの中に点在させ、まち全体をを巡ること自体が滞在の楽しみとなるよう設計しました。

単なる宿泊を超え、この地に受け継がれてきた「暮らしの美学」や土地の「風」に触れる時間は、地域の伝統と自身の心を結び直す体験となります。滞在を通じて文化の「つなぎ手」となり、歴史を未来へ継承するサイクルに参加する。それは、心身を再生へと導く新しい旅の形です。

神話の山々に守られた
静寂を歩き、癒される

「風の 倉吉」が位置する打吹玉川エリアは、国の重要伝統的建造物群保存地区。玉川のせせらぎに沿って白壁土蔵群が立ち並ぶ、水辺と建築が調和した稀有な景観が広がっています。

古来「神話の国」の中核とされてきたこの地は、仏の領域「三徳山」と神の領域「大山」という二つの聖なる山に抱かれています。かつて修験者たちが俗世に戻る前に心身を整えたとされる浄化の精神性は、今もこのまちの静寂の中に息づいています。

私たちが提唱するのは、歴史の息吹が残る路地を歩き、日本古来の美に触れることで、日常の中で見失っていた自分を再発見する“ヘリテージ・リトリート”です。四季折々の表情を見せる打吹山の自然を感じながら清らかな風を浴びれば、五感がひらき、心身がゆっくりと再生していくのを感じるはずです。

百余年の時を刻む文化財の建築美

リトリートの舞台となるのは、県指定保護文化財「小川家住宅」や国登録有形文化財「旧髙多家住宅」など、かつて商業の拠点として栄えた豪商の元邸宅です。

赤い石州瓦と白い漆喰壁が美しいコントラストを描く建物内には、職人の手跡が残る土壁や、長い年月を経て深い味わいを増した木の温もりが宿っています。客室はわずか11室。それぞれ趣が異なり、銘木が香る座敷や重厚な梁がのこる蔵のメゾネットなど、往時の建築美を独占する贅沢な時間を提供します。

繊細な筬(おさ)欄間や意匠を凝らした釘隠しなど、当時の粋を集めた伝統技法は、今もなお訪れる客人の感性を心地よく刺激します。百余年の時を刻んできた意匠に身を委ね、歴史と対話する。その静寂のひとときが、混雑から離れ、心身を整える時間をお過ごしいただけます。

文化財の歴史的背景

「風の 倉吉」の核となるのは、倉吉の繁栄を支えた二つの歴史的建造物です。

鳥取県指定保護文化財「小川家住宅」

「小川家住宅」は、江戸時代から続く倉吉を代表する商家の一つです。現存する主屋は明治後期に建立されたもので、のちに増築された新座敷や洋館、茶室などには当時の建築技術の粋が集められています。 特に、賓客を迎えるために昭和初期に設けられた座敷や茶室、そして季節の移ろいを写す美しい庭園は、倉吉の旦那衆が育んだ高い文化的教養を今に伝えています。建築様式としての価値はもちろん、この地に根付いた「もてなしの精神」が、建物の細部にまで息づいています。

国登録有形文化財「旧髙多家住宅」

「旧髙多家住宅」は、小鴨川を望む河原町の八橋往来沿いにおいて、ひときわ重厚な存在感を放つ旧家です。もともとは商業を営んでおり、広大な敷地内には主屋のほか、強固な土壁に守られた複数の「蔵」が点在しています。 今回客室として再生された蔵は、かつて家財や商品を大切に守ってきた「守護」の象徴。メゾネット構造を活かした空間には、重厚な梁や柱が当時のまま遺されており、堅実な商家の暮らしの記憶を肌で感じることができます。

これら二つの邸宅は、倉吉という街が歩んできた誇りそのものです。文化財という「生きた歴史」のなかで過ごす時間は、訪れる方に、時間を超えた深い安らぎをもたらしてくれます。

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建物の随所に息づく、名工たちの手仕事

「風の 倉吉」の空間を形作るのは、百余年の時を経て磨かれた天然の素材と、当時の名工たちが遺した精緻な手仕事です。華美な装飾を排し、素材そのものが持つ質感や光の移ろいを大切にする日本の美意識が、建物の随所に息づいています。

倉吉の意匠、筬(おさ)欄間と光の陰翳

小川家の客室やラウンジに施された「筬欄間(おさらんま)」は、竹や木の細い桟を幾重にも並べた、倉吉の商家に伝わる繊細な意匠です。季節や時刻によって変化する光と風は、この繊細な桟を通り抜けることで、室内に規則正しい陰翳を描き出します。障子越しに差し込む柔らかな朝の光から、夕刻に落ちる深い影まで。刻々と表情を変えるコントラストの中に身を置いて過ごす、文化財建築ならではの豊かなひとときをお愉しみください。

素材が奏でる質感、土壁と木の温もり

職人の手跡が残る土壁や、力強く空間を支える松の梁。年月を重ねた木材は、独特の艶と深い香りを湛え、空間全体に穏やかな安らぎを与えています。素足で触れる床の質感や、釘を使わず組み上げられた木組みの美しさ。名工の意匠が息づく空間で、文化財建築ならではの重厚な質感に触れられます。

自然を美しく切り取る、庭園の「間」

小川家に遺された、計算尽くされた庭園もまた、建築の一部です。座敷に腰を下ろし、額縁に見立てた開口部から眺める緑の景色。水面に反射する柔らかな光や、風に揺れる葉の音。室内と外が緩やかに繋がる日本の伝統的な「間」の設計により、座っているだけで移ろいゆく自然を身近に感じることができます。日常を脱ぎ、倉吉の呼吸に溶け込む体験。

日常を脱ぎ、倉吉の呼吸に溶け込む体験。

百余年の時を刻む意匠に守られ、ただ静かに身を委ねる。 それは、かつての主たちが愛した風の音を聞き、大地の恵みを慈しむ、 豊かで混じりけのない時間のはじまりです。

神話の時代から続く大山の懐、修験者が己を見つめた三徳山の静寂。 そして、今もなお職人の手仕事と暮らしが息づく白壁土蔵の町並み。 この地に流れる健やかなリズムは、呼吸を深く整え、感性を透き通るものへと変えてくれます。

単なる「観光」ではなく、土地の記憶を辿り、ありのままの自分を呼び覚ます旅。 倉吉の風に心を開き、本来のあなたへと還るための「調律のひととき」をご用意しました。

普段の旅では出逢えない、本当の自分を再発見する滞在へ。